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27話 騎士団長の娘、エリゼの温かい誘い

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-11-12 06:00:28

「レイニー様、あの方たちは……もう動けなくなってしまいましたよ」

 あーちゃんが指差すと、男たちは未だ路地裏に倒れたまま、震え続けていた。

「え〜、そうなの? 早く起きないと、おじいさん困っちゃうじゃん」

 レイニーは困ったように首を傾げた。その表情は、まるで自分がどれほどのことをしたのか理解していないかのようだった。

「おじいさん、警備兵の人とか呼んだ方がいいのかな?」

 レイニーがお年寄りに尋ねると、お年寄りは慌てて首を振った。

「い、いや、もう大丈夫だ……ありがとうな、坊主。本当に助かった……」

 お年寄りは深々と頭を下げた。レイニーは少し寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。

「そっか! じゃあ、もう大丈夫だね! あーちゃん、行こっか!」

 レイニーは明るい声であーちゃんに呼びかけ、路地裏を後にした。あーちゃんは、未だに震えている男たちと、何も知らないレイニーの背中を交互に見つめた。この子供の行動は、善意と無自覚な破壊衝動が混在している。一体、この先何が起こるのだろうか。あーちゃんの胸には、新たな不安と、レイニーに対する畏敬の念が同時に広がっていた。

♢退屈な日常と新たな誘い

 お城での訓練も最近では飽きてきてしまっていた。というのも、魔法はお城にある書庫の魔術書を全て読破してしまい、魔術師団長のガードナーからも「教えられることはもう無い」と言われてしまったからだ。剣術も騎士団長のセリオスから指導を受けていたが、魔法の訓練より簡単に習得してしまった。レイニーの心には、満たされない退屈が募っていた。

 暇を持て余し、軍の練習場で訓練を眺めていた。兵士たちの掛け声や、剣がぶつかり合う音が響く中で、レイニーの視線は宙を彷徨う。そこに、セリオスから剣術を教えてもらっている時に知り合った、彼の娘のエリゼがパタパタと足音を鳴らしながら駆け寄ってきた。金髪で色白だが健康的で、頬が桃色に染まった可愛らしい少女、活発的で元気なエリゼの姿は、見ているだけでこちらまで元気になる。その明るい笑顔は、レイニーの心に温かい光を灯した。

「レイニーお兄ちゃんっ!」

 いつもの元気な声と笑顔を向けてくるエリゼに、レイニーは頬を緩めた。エリゼの無邪気な声は、レイニーの退屈な日常に彩りを与えてくれる。

「エリゼ、今日も来てるんだ?」

 レイニーが問いかけると、エリゼは嬉しそうに頷いた。

「お兄ちゃん、今日は剣術のお稽古はしないの〜?」

 エリゼの父親である騎士団長が、申し訳なさそうにレイニーに言ってきたのだ。「すみません、レイニー様。教えられることが無くなってしまいました……」と。もちろん、これは秘密だ。魔術と騎士、両方の団長を越えてしまったらしいから、そんなことが公になれば、二人の団長と自分が面倒なことになってしまう。レイニーは、その事実をエリゼに悟られないよう、注意深く言葉を選んだ。

 ちなみに、エリゼは自分が王子だと気付いていないようだ。自己紹介の時に「俺、レイニー。お父さんから剣術を習ってるんだぁ〜♪ よろしくねっ」と軽く紹介したため、「お兄ちゃん」と呼ばれている。父親のセリオスが焦って注意を促したが、レイニーは「お兄ちゃんで良いよ〜♪」と止めたのだ。その時のセリオスの慌てた顔を思い出し、レイニーは心の中でくすりと笑った。

「今日はね、お休みなんだ〜」

 レイニーはエリゼに笑顔で言った。

「わぁ……ホント!? お休みなのっ? ってことは……一緒に遊べるのかなぁ?」

 エリゼが桃色の頬をさらに赤く染め、俯き加減で恥ずかしそうに誘ってきた。その声は、期待と、わずかな不安が混じっている。

「うん、大丈夫だよ」

 レイニーは、エリゼの誘いを快諾した。とはいえ、軍の練習場で遊ぶわけにはいかない。広大な敷地とはいえ、武器や魔法の使用も行われているため危険だ。王子だからといって権限で入ることは可能だが、兵士たちに迷惑がかかるのは避けたかった。

 毎日の癖で朝食を摂り、着替えた服装は動きやすい冒険者の格好をしていた。エリゼも冒険者のような格好で遊びに来ている。その姿は、まるで小さな冒険者パーティーのようだ。

「お兄ちゃん……あのね、冒険ごっこしよぅ〜?」

 エリゼが、キラキラとした目でレイニーを見上げてきた。

「良いけど、ここじゃできないよ? 危ないしさぁー」

 レイニーは、やんわりと断った。

「えぇ……広くて遊べるよー」

 エリゼは、不満そうに口を尖らせた。

「ここは訓練場だからダメだよ。他の所で遊ぼ」

 レイニーは、諭すように言った。

「うん、わかったぁ〜♪」

 エリゼは、しぶしぶといった感じで頷いた。

♢王子の悩みとエリゼの期待

 うぅ〜ん……どうしようかなぁ……? 王城の中を連れ回すのは非常識を教えてしまうことになる。自分がいない時にエリゼが侵入して騒ぎを起こしたら可哀想だし、捕まえた兵士にも迷惑をかけるだろうしなぁ、とレイニーは考え始めた。

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